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アメリカの医療問題とナースプラクティショナーからの視点

  • 執筆者の写真: Seattle Networking Group
    Seattle Networking Group
  • 2018年10月28日
  • 読了時間: 5分


2018年1月20日 ナースプラクティショナー 本田まなみさん


本日の学び:各人にとっての「良い医療サービス」を考え、医療従事者・患者・保険会社・政府の関わり(構造・過程・結果)を能動的に学び、質とコストの改善を目指すことが大切!


今回は、ナースプラクティショナーの本田まなみさんをお招きして、実際の医療現場から見える米国医療の実態や日本の医療との違いに迫りました。 ナースプラクティショナー(Nurse Practitioner、NP)とは、主にアメリカにおいて制度化されている上級の看護職(臨床医と看護師の中間職)です。特定の診断や治療などを行うことができるNPは、特定看護師とも呼ばれ、日本では国家資格としての導入が検討されているそうです。

今回のポイント

  • ナースプラクティショナー (NP)は、医師不足と患者数急増によって生まれた上級看護師である。

  • 州によってNPが可能な業務に違いはあるが、ワシントン州では、問診、診察、診断、検査の指示、薬の処方、クリニックでの処置、それぞれの専門的処置(出産、麻酔、検査など)、単独での開業などが可能である。

  • 「医療の質」の中で、何を優先するかが重要(安全性、公正性、適時性、有効性、コスト)。

  • 住んでいる国、地域における制度の違いを知ることが(特に保険制度)、各人にとってのより良い医療に繋がる。

日米の医療制度の違い

まず議論されたのは、日米の医療制度や環境の違いについてです。病院数、医師数、受診回数などの基準をみると、日本の医療環境は決して悪くないように見えますが、医療制度に対する満足度は、日本は他国と比較すると低めだそうです。その理由は、例えば待ち時間の長さであったり、あるいは自宅周辺で治療が受けられないといった事例が挙げられます。そのような「医療の質」に関する項目は、優先順位も含めて、それぞれの国や地域で違いが見られそうだということが、参加者の皆様の意見からもわかってきました。

医療の質

医療の質の中でも、今回特に注目したのは安全性、公正性、適時性、有効性についてです。またそれらを考える上で、構造(体制や環境)、過程(何が行われたか)、そして結果(患者に何が起こったか)の3つを中心に検討することが大切だと学びました。例えばアクセス(病院選び)の違いを考える場合、日本では予約なしでも診察を受けることができる場合が多いですが、アメリカでは基本的には予約をし、保険内容を事前にチェックし、さらには検査・処方内容も各々の保険会社でカバーされている内容が異なる、といった特徴があります。このことからも、特にアメリカでは保険会社の存在感が非常に強く、「医療の質」に影響を及ぼしていることがわかります。

医療費の高騰

非常に印象的だったのは、米国の自己破産の理由の第1位が医療費によるものであるという事実です。医療費の高騰のため、アメリカでは診療が終わってからも請求額に不安を抱えるケースが非常に多いそうです。日本では、自己負担の上限額が設定されているため、その点で比較すると安心できる環境であると言えそうです。高騰しているアメリカの医療費の内訳は、prescription drugs(処方薬)、physician services(医療行為)、outpatient services(外来業務)、inpatient services(入院患者へのサービス)、operating costs(運営費)などです。その中でも、特にアメリカの医療費を特徴付けているものとして、製薬会社の自由な価格設定が挙げられます(後発品でさえ価格を自由に上げられる)。また、ロビー活動が制度化されているアメリカでは、ロビー活動支出の主要産業として医薬品、健康製品、保険、医療施設、養護施設などが上位にくるほど、ロビー活動費も医療費高騰の一つの理由になっているそうです。そのため特に低所得患者にとっては、医療費に関する交渉の余地がないのが現実です。

NPの役割と医療現場から見た米国ヘルスケアの問題点

今回のゲストである本田まなみさんからは、まずナースプラクティショナー(Nurse Practitioner、NP)についてのご説明がありました。Advanced Registered Nurse Practitioner (ARNP) もしくはAdvanced Practice Registered Nurse(APRN)、上級看護師(高度実践看護師)とも呼ばれるNPになるには以下のプロセスが必要だそうです。

  • 学士課程を修了

  • 正看護師(RN)の資格を取得

  • 大学院で修士もしくは博士号を取得(Master of Science in Nursing(MSN)、Doctor of Nursing Practice(DNP))

  • 国に認可されている州立試験に合格

  • 州のライセンスを取得

NPの認定分野としては、family、adult/gerontology(primary or acute)、pediatric primary、psychiatric/mental health, emergency、anesthetistがあり、primary care provider(PCP)で働くケースなどがあるそうです。NPのそもそもの発端は、医師不足と患者数急増を受けてコロラド看護大学でNPプログラムが発足したことから始まり、その後認定プログラムから修士課程のプログラムに変更されたそうです。アメリカにおけるNPは現在は約234,000人で、80%以上のNPがプライマリーケアの認定を受けており、平均年収は約$100,000だそうです。NPの役割や職域は幅広く、問診、診察、診断、検査の指示、薬の処方、クリニックでの処置、それぞれの専門的処置(出産、麻酔、検査など)、さらには単独での開業も可能であり、合理性・柔軟性を重視するアメリカらしい制度と言えそうです。


一方で日本では、専門看護師制度はありますが、NP認定資格制度はまだないそうです。大分県の特別区にて実験的にNPが導入されていますが、全国的な制度化はまだされていません(2018年1月20日現在)。医師会からは、「ミニ医者を作ろうとするな」といったような批判もあるそうです。参加者の皆様との意見交換の中で、「お金としてのインセンティブや責任のあり方がはっきりすれば、日本でも制度として成立するだろう」というような意見も挙げられました。


NPとして実際にアメリカの医療問題を現場で目の当たりにしている本田さんは、特に保険料や複雑な健康保険システム、地域や貧富の差による医療のアクセスや質の差、鎮痛剤などの娯楽目的の摂取を含めた医薬品の過剰摂取などを問題として取り上げられていました。また、アメリカの医療保険制度については、「オバマケア制度実施時には、国民全員に医療保険が義務付けられていたため、保険に加入していない場合、年度末に罰金を支払うことになっていた。罰金よりも保険料が高いために、あえて保険に入らない人もいた。」との実態も明らかにされました。医療コストの高騰の大きな要因である、いびつな医療制度・構造に関して共有し議論する有益な時間となりました。注目される一方で掴みどころのないヘルスケア業界に対して、本会を通じて少しでも理解を深めるきっかけになれば幸いです。

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